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♯1-② 脳卒中コラム【感覚が無い世界/自分はどうして立てているのか・・】発症後の人生


Sさん(仮)はその後、発症直後の急性期と言われる期間を2週間経て、リハビリ目的のために転院することとなります。しかし、現実に悩み、理解するのも精一杯。


「僕にしては、(転院して)リハビリとか全く考えてないから、『あぁそうか、病院変わってもっとよく見てくれるんだな』って。」

転院するのはSさんの意思ではなく、リハビリをすることにも実感は伴わなかった。


現在は手足、指に至るまで動かすことができるようになったSさん(仮)ではあるが、

「当時は右手がバーっと浮腫で腫れあがって。完全に動かなくなってた。」

このことに気がついたのも、数日が経過してから。右半身の麻痺によって手足は動かず、どうやってご飯を食べていたのかも思い返すことができない。


そんなSさん(仮)にも、時間の経過とともに変化が生じはじめる。

まず、装着されていた転倒防止の固定腰ベルトが外れた。

「病院にはリハビリの先生と整形外科の先生がいて、『リハビリって見てみたい』、と言ったみたい」

その希望が叶い、初めて入ったリハビリ室の環境をみて思ったことがあった。

「(リハビリ用の)ベッドがあって、バスケットボールがあって、(訓練で昇降する)階段もあった。」

 -こんなのどうってことないや。-

そう思ったSさん(仮)ではあるが、杖はおろか、車椅子で移動するような状況だったのだ。


さらに、受け入れ難い現実があった。

「色んな人がお見舞いに来ていた。僕はその人たちに『来い』と言ったことは一度もない。ただ、違う要求をしていた。『いつになったら治るんだろう』」

「僕にしてみれば、前の体に戻れると思っていた」

ふと目についた右手は、いまだに黒く腫れあがっている。

「先生が来て、この手を取り替えてくれるんだろうと思っていた。だけど、徐々に現実に呼び込まれると・・・そんなことないっすよね。」


太ももから足の先まですっぽり入ってしまう、大きな装具をつけての歩行訓練。

手すりを持ちながら、一歩一歩。5、6歩歩いたらまた振り出しに戻って、また歩く。

足取りを見た理学療法士が、

「Sさん(仮)大丈夫ですね」と声をかける。

Sさん(仮)は困惑を隠せない。「全然大丈夫でもなんでもない。」


歩いている感覚が無い。手で歩いていた。

「(麻痺の影響で)感覚が無いってことは、手応えなんて無い。どうやって立ってるのかもわかんない。」


突きつけられた事実から、精神的にも物理的に逃げられない状況ではあったものの、

Sさん(仮)はリハビリを続け、退院10日前を迎える。


Sさん(仮)は元々、とある企業の愛知営業所に従事されていた。

企業からしてみれば、Sさん(仮)は貴重な人財だった。

復職される運びとなるのは、Sさん(仮)の人となりを考えれば当然のことなのかもしれない。

企業の社員の方が病院に赴かれたのだ。

「じゃあ(復職に向けて)様子を見ましょう」



退院後、企業の本社に挨拶を済ませ、いよいよ愛知県での赴任生活が始まるSさん(仮)。

退院後から振り返る病院生活、退院後の苦悩、そして新たなチャレンジは次回のコラムにて。







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